今回は、OPTNET.INFO編集委員・星野翔吾さん(光エレクトロニクス研究室)より、光ファイバの中を流れる信号の特性を正確に計測するための最新技術を紹介していただきます。この研究は、北海道大学とKDDI株式会社との共同研究になります。
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通信容量の枯渇
光通信はインターネットトラフィックの急速な伸びを支えてきた.しかし,急拡大するネットユーザによる映像情報やクラウド情報などにより年々トラフィック量は急増し続けている.また,現代社会では,多様なモノや社会インフラなどあらゆるものがネットワークでつながり,スマートデバイスやセンサーからネットワークを介して膨大なデータが集まる.したがって,これまでの光通信ネットワーク技術ではその需要を満たすことが困難になると見通されている.そこで光通信の伝送容量を増加するために,空間分割多重伝送に関する研究が活発に行われている.
モード分割多重伝送
現在の光通信では,シングルモードファイバを用いた通信方式が主流となっているが,シングルモードファイバによる伝送容量は非線形シャノン限界と呼ばれる理論的な限界が存在する.そこで,この限界を打破するため空間の自由度による多重化である空間分割多重伝送が注目されている.空間分割多重伝送の中でも,シングルモードファイバよりコア径が大きい光ファイバを使用し,複数の空間モードの伝搬を扱うモード分割多重伝送がある.モード分割多重伝送では,光ファイバ中に存在する複数の空間モードをそれぞれ独立したチャンネルとして扱うことで,空間モードの数に比例して伝送容量を増やすことが可能となる.
モード間遅延差
1つのファイバ中の複数の空間モードを扱うモード分割多重伝送において,それぞれの空間モードに乗せられた信号が光ファイバ中を進む.その際に,それぞれの空間モードの光ファイバ中における速さが異なることから,信号がファイバ出射端に到着する時間が異なる.この到着時間の差をモード間遅延差という.モード分割多重伝送システムでは,このモード間遅延差がシステムの構成や伝送特性を決定する上で重要なパラメータとなっている.したがって,システム設計にはモード間遅延差を正確に把握しておく必要がある.
参照光不要型ディジタルホログラフィによるモード間遅延差の計測
モード間遅延差を高精度かつ計測している空間モードの分布を観測できるモード間遅延差計測手法がある.しかしながら,この計測手法では,干渉計測を基礎としているため測定する光ファイバの長さに調節をしたシングルモードファイバを参照経路として用いなければならない.そこで,我々の研究室では,この参照経路を必要としないモード間遅延差を計測手法として参照光不要型ディジタルホログラフィによるモード間遅延差の計測の研究を行っている.
従来手法と提案手法の比較を図1に示す.提案手法では,ファイバ出射端から光波を分波することによりシングルモードファイバを用いた参照経路を不要とすることを可能とする.このファイバ出射端から分波した新たな経路を内部参照光と呼んでいる.内部参照光には,信号光のモード間遅延差の計測のために,基準となる一つモードのみが存在する状況にする必要がある.そこで,内部参照光経路に基本モードのみを透過させる,レンズとピンホールからなる空間フィルタを設置している.
提案手法の基本動作の確認のために実証実験を行った.実験系を図2に示す.提案手法と従来手法の計測結果の比較を図3に示す.提案手法において従来手法と同じ位置に空間モードのピークが存在しており,高精度なモード間遅延差の計測が提案手法でも可能であることが分かる.しかしながら,従来手法にはない不要なピークが存在している.これは,内部参照光に基本モード以外が存在していることが原因だと考えられる.
まとめ
測定ファイバの長さに調節した参照光経路であるシングルモードファイバを使用しない参照光不要型ディジタルホログラフィによるモード間遅延差を提案し実証実験を行った.従来手法と同様な高精度なモード間遅延差計測を行うことが提案手法で確認できた.しかしながら,空間フィルタの不完全性により基本モード以外が存在し,不要なピークが提案手法において発生してしまった.今後は,空間フィルタの改善を行う.